森口氏のiPS細胞心筋移植を誤報の読売と共同通信が謝罪 ネイチャー誌、京大・山中教授らの論文を盗用の疑いと報じる

iPS細胞から心筋細胞を作り重傷の心臓病患者に移植したという森口尚史氏(48)の研究成果について疑義が生じている問題で、この研究成果について11日に報道していた読売新聞は13日、誤報であると報じるとともに、iPS心筋移植に関する記事に誤りがあったことを認め謝罪しています。
また、米国で森口尚史氏が初の臨床応用を実施したとする記事を配信していた共同通信社も「誤った情報を読者にお伝えしたことをおわびします」とする吉田文和編集局長のコメントを発表しました。

ハーバード大学の否定後に取材を受ける森口氏

森口氏は口頭で発表するとしていたニューヨーク幹細胞財団主催の国際会議の会場に現れませんでした。
国際会議の会場に森口氏は研究成果のポスターを掲示していましたが、国際会議を主催する「ニューヨーク幹細胞財団」の広報担当者「ポスターは取り外した。森口氏はここにはいない」と語っています。

読売新聞の謝罪記事並びに検証によると、森口氏の論文で「共同執筆者」とされる大学講師が論文に全く関与していなかったそうです。
大学講師が否定しているのは森口氏は心筋細胞の移植の研究成果をまとめた論文で、森口氏はネイチャー・プロトコルズ」誌に掲載予定と読売新聞の取材に話していました。

大学講師は「森口氏とは約5年会っておらず、論文に名前が使われることは全く知らなかった」と話しています。
また、別の共同執筆者の大学教授は、ハーバード大の倫理審査について森口氏に尋ねていますが、「クリアになった」と回答されたといいます。
読売新聞は9月19日に「米ハーバード大学客員講師」を名乗る森口氏から話を持ちかけられ、10月1日には、論文草稿と自ら行ったという細胞移植手術の動画などが読売新聞に電子メールで送られていました。この時に森口氏は論文を科学誌「ネイチャー・プロトコルズ誌」に投稿したとしていました。取材は4日午後に東大医学部付属病院の会議室で行われ「2月に重症の心不全患者(34)にiPS細胞から作った細胞を移植し、うまくいった」と説明されています。

ところが12日の時点で論文はネイチャー・プロトコルズ誌に掲載されることはありませんでした。
かわりにネイチャー・プロトコルズ誌は森口氏の論文はiPS細胞の作成でノーベル医学生理学賞を受賞した山中伸弥・京都大教授らの複数の論文を盗用した疑いがあると報じました。

再生医療の第一人者である大学教授に森口氏の論文草稿について意見を聞き「本当に行われたのなら、6か月も生存しているというのは驚きだ」とのコメントを得たことも踏まえ、9日昼に読売新聞の担当次長が部長に概要を説明し、部長は記者に「物証は十分か」と確認したうえ、できるだけ早い掲載を指示していました。
こうした経過をたどり、「iPS心筋を移植 初の臨床応用」という記事を11日朝刊1面で報道し、さらにニューヨークで森口氏にインタビュー取材し、11日夕刊1面で「死の間際 iPSしかなかった」との続報を掲載したと説明しています。

今回の誤報を報じた読売新聞の読売新聞東京本社編集局長は検証や確認のないまま誤った内容を報じたことについて由々しき事態であるとし、「私たちはそれを見抜けなかった取材の甘さを率直に反省し、記者の専門知識をさらに高める努力をしていきます」と謝罪しています。

ハーバード大学当局者は読売新聞の取材に対し「iPS細胞移植に関する森口氏の話はうそだと確信している」と話しています。
森口氏はハーバード大学の「客員講師」を名乗っていましたが、ハーバード大に属していたのは、1999年11月から2000年1月初旬までの1か月余りだけで、現在は何も関係がないとしています。

ハーバード大学当局者によると森口氏が行ったとする心筋細胞の移植のためには、ハーバード大学の倫理審査委員会の同意が必要ですが、それを示す記録はなく、森口氏の話していた「マサチューセッツ総合病院の複数の患者に細胞移植を行った」についても、ハーバード大学当局者は「マサチューセッツ総合病院では、だれ一人として、そんな移植は受けていない」と話しています。

マサチューセッツ総合病院は12日に「iPS細胞を使った治療が行われた形跡は一切ない」と森口氏の主張を全面否定する声明を発表しました。
マサチューセッツ総合病院の広報担当責任者スーザン・マクグリービー氏は「iPS細胞の臨床研究に関する申請自体がない。(森口氏による)手術は、当病院では一切行われていない」と否定しました。

声明によると、森口氏とiPS細胞に関する論文の共著があるレイモンド・チャン医師からの聞き取り調査の結果として「チャン医師は森口氏が今回発表した臨床治療の経緯について何も知らない」と言明し、名義が勝手に使われた可能性を示唆しています。
マクグリービー氏は「私が言えるのは、彼はわずかの期間しかこの病院にはおらず、それから10年以上も過ぎたということだけだ」と話しました。

当初、NHKの取材に対し森口氏は、「東京大学の特任教授で、ハーバード大学の客員研究員も兼任している」と述べ、「自分は医師で、アメリカの医師の資格も持っている」としたうえで、実際に「マサチューセッツ総合病院で重い心臓病の34歳の男性患者にiPS細胞から作った心筋細胞を『私が』心臓に注射して移植を行った」と説明していました。

しかし、日本時間の11日夜遅く、NHKは改めて確認したところ、「医師免許はないが、看護師の免許は持っている。アメリカでは、医師の指示の下で医療行為を行う助手の資格はあり、実際に細胞を移植する注射を行った」と説明を変更していました。

アメリカの国際学会から研究内容について疑義が示されたことについては「なぜハーバード大学や手術を行った病院が、臨床研究の申請を受け付けていないと否定しているのか、全く分からない。移植に関するデータなど証拠はすべて日本にあるため、今は移植の実施を証明することはできないが、落ち着いた段階で一緒に研究を続けてきたアメリカの研究者とも連絡を取り、説明をできるようにしたい」と述べ、「iPS細胞から変化させた細胞をヒトに移植したことは間違いない」と述べ、実際にiPS細胞を使った治療を実施したと改めて主張しました。

その後、森口氏は「今まで言っていたことは自分では正しいと思っている」と話しましたが、臨床治療を行ったかどうかについて「分からない」とし、滞在していたホテルの屋外で質問した報道陣に「こういうふうな感じではなく、ちゃんとした形で話したい」と繰り返しました。
病院の発表について「間違いがないかどうか確かめてみないと分からない」と話した後、「(病院は)どうしてこういうことを言うのか。間違っている」と述べ、「状況とかのみ込めないところがある」と話したといいます。

共同執筆者の1人となっている東京医科歯科大学の佐藤千史教授も、森口氏の論文について記者会見し、「ことしの8月か9月に学会で発表する内容を簡単に記した抄録がメールで送られてきた。正しい研究の進め方だと判断し、共同執筆者として了承した。今思えば検証が不十分だった。ハーバード大学の正式な講師と考え、全く疑っていなかった。責任を感じている」と説明しました。

また、おととしにも大学のグループと共にiPS細胞を使ってC型肝炎の治療薬の効果的な組み合わせを見つけたと報道されたことについても、共同執筆者となっている佐藤教授は「確認が不十分で不明を恥じている」と述べました。
一方、2つの発表について大学の森田育男理事は「発表内容が正しいかどうか分からないが、大学ではiPS細胞を使った実験や研究を行った事実はない」と述べました。
東京医科歯科大で会見した佐藤千史教授は森口氏の大学院時代の指導教官でした。佐藤教授は「早い段階で気づかなかったという反省はある。論文に出している写真やデータを送ってくるので、信じるしかなかった」と釈明しました。
森口氏が卒業した東京医科歯科大学は93年に医学部保健衛生学科を卒業し、同年に看護師の国家資格を取得、95年同大大学院修士課程を修了している。修士論文のテーマは「健康診断における異常所見の評価とその予後に関する考察?超音波エコーによる胆のうポリープの自然経過の検討」97年から09年までは同大で、保健看護学や健康情報の統計分析などの科目を担当する非常勤講師として勤務していたと発表しました。

嘘のニュースだけを扱う「虚構新聞」が今回の読売新聞の誤報について記事を更新しており、「本記事は読売新聞社内のゴミ箱から拾った原稿を参照して執筆・掲載いたしました。秀逸な記事をご提供くださった同社にはこの場を借りて厚く御礼申し上げます」と述べています。

時事ドットコム:共同通信がおわび=iPS臨床「裏付け不十分」時事ドットコム:共同通信がおわび=iPS臨床「裏付け不十分」

 iPS細胞の心筋移植問題で、米国で森口尚史氏が初の臨床応用を実施したとする記事を配信した共同通信社は12日、「誤った情報を読者にお伝えしたことをおわびします」とする吉田文和編集局長のコメントを発表した。
 コメントは「研究データ点検など裏付け取材を十分尽くさず、臨床研究が行われたとの誤った情報を読者にお伝えしたことをおわびします。今回の取材を検証し、今後は正確な報道に努めます」などとしている。
 同社は11日、「内容の検証が不可欠」と指摘した上で、森口氏の「成果」を報道。配信記事は複数の地方紙に掲載された。(2012/10/12-20:18)

「iPS心筋移植」報道、事実関係を調査します : 社会 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)「iPS心筋移植」報道、事実関係を調査します : 社会 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
ハーバード大、「iPS細胞移植例ない」と説明 : 社会 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)ハーバード大、「iPS細胞移植例ない」と説明 : 社会 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
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【おわび】iPS移植は虚偽…読売、誤報と判断 : 社会 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)【おわび】iPS移植は虚偽…読売、誤報と判断 : 社会 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
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検証「iPS移植報道」森口氏、治療の事実なし : 社会 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)検証「iPS移植報道」森口氏、治療の事実なし : 社会 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

朝日新聞デジタル:「初のiPS臨床応用」 読売新聞報道、大学は関与否定 – 科学朝日新聞デジタル:「初のiPS臨床応用」 読売新聞報道、大学は関与否定 - 科学

東京医科歯科大、「iPS報道」めぐり渦中の森口尚史氏に関し会見(12/10/12)

共同執筆者 “検証不十分だった” NHKニュース共同執筆者

東京新聞:iPS治療「分からない」 森口氏、主張あいまいに:国際(TOKYO Web)東京新聞:iPS治療「分からない」 森口氏、主張あいまいに:国際(TOKYO Web)
iPS臨床問題:「共同研究者」直接関与を否定- 毎日jp(毎日新聞)iPS臨床問題:「共同研究者」直接関与を否定- 毎日jp(毎日新聞)

iPS臨床問題:山中氏論文盗用の疑い…ネイチャー電子版- 毎日jp(毎日新聞)iPS臨床問題:山中氏論文盗用の疑い…ネイチャー電子版- 毎日jp(毎日新聞)

 ネイチャーによると、森口氏らが執筆した胚性幹細胞(はいせいかんさいぼう)(ES細胞)に関する11年出版の書籍では、たんぱく質の検出手法に関する部分で、07年の山中氏の論文とほとんど同じ文言の内容が含まれていた。また、肝臓の検査に触れた部分でも、10年の別の研究者の論文の内容が一部改変して使われていたという。

iPS細胞利用で心筋移植、世界初の臨床応用iPS細胞利用で心筋移植、世界初の臨床応用
http://kyoko-np.net/2012101301.html

山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた
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